そこにある個性から
滲む美しさを撮りたい
草野庸子 写真家
3月8日は女性の功績を祝福し、女性の生き方を考える「国際女性デー」。今年のキーワード「SENSE/感覚」をテーマに、しなやかな美しさを携えた5名の女性クリエイターたちのインタビューをお届けします。彼女たちの表現や、彼女たち自身が持つ美しさの背景には、どんな感性が息づいているのでしょうか。
草野庸子
YOKO KUSANO
(写真家)
福島県いわき市出身。桑沢デザイン研究所在学中、プライベートで撮りため応募した写真で2014年キヤノン写真新世紀優秀賞選出。現在は東京を拠点に活動している。
@yoko.kusano
SENSE
その景色に対峙しても、誰もが写真に残したいとは感じないかもしれない。草野さんは、そんな何気ない風景のなかに一瞬の美しさを捉えて切り取ることができ、それは唯一無二の輝きを放つ写真となる。
EVERYTHING IS TEMPORARY(すべてが一時的なものです)
〈写真集〉
Across The Sea
〈写真集〉
INTERVIEW
「なるべく作為的なものは入れず、そのままの状態を撮りたいと思っています。日常になじんだ、派手じゃない美しさ。なんでもないけど綺麗で、なんだかじわっと思い出す、そんな感覚のものを」。
長く会わないまま他界した父の遺品にたくさんの写真があり、そこに幼少期の草野さんも映っていた。それを見て「写真に残すってどういうことだろう」と興味を持ち、撮り始めたという。桑沢デザイン研究所ではグラフィックを専攻していたものの、応募してみたキヤノン写真新世紀で優秀賞に選出。以降写真家として、ポートレート、ファッション、カルチャー、さまざまな分野で活躍している。
「その人らしさが見えた時が一番美しいと思います。表情や歩きかた、背中など、細かいところにふと現れる印象が頭の中で繋がる瞬間にシャッターを切っています」。今はSNSの影響で、一瞬で大きく光って散る、打ち上げ花火のような美しさが求められる時代。けれど、わからないものをわからないままで、それでも少し近づいていくような美しさのアプローチもある、と草野さんは話す。「ひとつの事象にも、捉えかたが無数にあります。その多様なレイヤーを伝えることが、写真でできるかも、と思っています」。ふいに、肉眼で見ている景色よりもきれいな写真が出来上がることがある。「その写真を見ると、世界の見えかたには無数の選択肢があることを再確認させられます。そこが私の思う写真の面白さであり、だからこそずっと撮り続けていられるのかもしれません」。
WEB LIMITED
最近は本を読むよう心がけているという草野さん。「本って、読まないとどんどん読めなくなっていってしまうので。ジャンルは問わず、人に勧められたものも素直に手に取ってみるようにしています。今は大好きなフラナリー・オコナーの短編集を読み返しているところです」。本に限らず、なるべく先入観は捨て、色々なものを見たり読んだりすることが、草野さんにとっては大切なのだという。「良くなさそうだなと思っていた展示が、見てみたら案外良かったということもあるし、その逆もあるから。誰かの表現に触れることで、励まされ、自分の表現についても整理できます」。これまでは瞬発的に撮り溜め、コンセプトにあわせてセレクトしていく方法を取っていた草野さんだが、2023年より、かつて父親が長く暮らしていたタイに赴き、遺品と風景を撮影するプロジェクトを始めた。「年齢を重ねると、ライフスタイルも変わるし写真の撮り方も変わる。自分はこれからどんなものを写真にしていきたいのか、考えながら撮っています 」。
Photo_Mizuho Takamura